ワインやシャンパン、日本酒などにはなかなか入手できない《幻の銘柄》というものがあります。実はコレ、お酒だけじゃないんです。

《幻の銘柄》と讃えられるものは紅茶にも存在します。

紅茶で大変貴重なものして扱われているのが、チャの木の先端部分の、葉になる前の針のようになっている“芽”の部分。この部分はチップ(Tip)と呼ばれていて、ダージリンのファースト・フラッシュ(4月頃に収穫される茶葉)の芽やスリランカの6月の初めの頃に収穫されるウバの芽がこれにあたります。収穫期間が短い上に、収穫自体に手間が掛かるため、ほんの少ししか生産されません。このチャの木の芽から作られる茶葉が、紅茶愛好家たちから《幻の紅茶》と呼ばれるものなのです。

このチップだけで作られる紅茶は、摘み取りの時期や製茶の方法によって多少色が違ってきます。茶葉を発酵させる液で染まった、薄い褐色から黄色がかったものを《金の芽/ゴールデン・チップ》、やや白っぽくてグレーがかったものを《銀の芽/シルバー・チップ》といいます。

ゴージャスな名前の紅茶ですが、味や色は控えめ。熱湯を注いで蒸らしても水色は淡く、ほとんど出ません。香りも干し草のような甘い香りがかすかにするだけ。味にも特徴はなく、ソフトでちょっととろりとしている感じ。にも関わらず、生産量がとても少ないため希少価値が高く、たった100g程度で約4,000〜5,000円ほどするんだから驚きです。

しかしこのチップ、どんな紅茶にも含まれいたりします。茶園ではチャの木の葉を手摘みしますが、一芯二葉といって、芽が1・葉が2で収穫されていきます。なので必ず含まれているのです。

「じゃあ、なんでそんなに重宝されてるの?」

実はチップは紅茶をさらに美味しくする魔法の紅茶なんです。このチップが多く含まれている紅茶はまろやかで風味が優しくなる、いわゆる《隠し味》になるのです!もしもチップを手に入れることができたなら、渋みの強い紅茶にひとつまみいれて、その変化を楽しむことができますよ。

チップは「飲みたい!」と思って飲めるような紅茶ではありません。もしも機会に恵まれた人は、王侯貴族時代から今まで貴重に扱われているこのチップの淡い色と香り、まろやかな口当たりに感じ入って飲むのが紅茶通ってもの。

また、紅茶通なら味わいたいのが《フレッシュティー》!いわば日本茶にの新茶のようなもの。紅茶工場に行って、1番美味しい紅茶と勧められるのは、その日できたばかりの新鮮な茶葉で入れた紅茶。快い刺激的な渋みにほんのりと甘さがあるマイルドな口当たり。香りは青々しさと花束やフルーツを思い出させる甘い香りが芳醇に漂います。この生まれたての新茶の状態は、製造からわずか5〜6ヶ月くらいしか維持ができません。輸出されて市場に流通する頃には、大半はその品質を失ってしまっているのです。

フレッシュティーで日本で入手できるのは、インドのダージリンのファースト・フラッシュとセカンド・フラッシュ、オータムナル。それからキーマンなどのシーズンティーです。特にダージリンは有名で、緑茶の1番茶並の扱いなので入手しやすいです。スリランカの場合は年中茶のシーズンなので、新鮮という意味で新茶といえます。

フレッシュティーはできたての良さを楽しめますが、同時に季節や天候の影響でその品質が左右されます。

フレッシュティーはノンブレンドの紅茶です。一般的に飲まれる一定品質が保証されたブレンドティーとはまた違った味わい方ができます。時期に寄って入手できる産地が違ってくるので、ワインのようにその時期のものの出来を楽しみながら味わうのが紅茶通。